親に反対されて燃え上がった恋が、反対がなくなったとたんに冷めてしまうことがあります。恋愛でよく聞くこの流れは、禁止されるほど対象に惹かれるカリギュラ効果の例として説明できます。親が交際に反対すると、相手と付き合う自由がおびやかされます。反対が続くかぎり、その自由を手放すまいとする思いが恋心と結びつき、相手への気持ちが強まって感じられます。反対が消えれば守る理由もなくなり、熱は落ち着きます。
もっとも、親の反対で愛情が深まるという1972年の研究結果は、2014年の追試で再現されていません。追試では、親の干渉を強く感じている人や、親から認められていない人ほど、パートナーとの関係の質を低く答えていました。反対されて盛り上がった気持ちは、関係が安定している証拠にはなりません。
燃え上がる恋には、カリギュラ効果の背景にある心理的リアクタンスのほか、手に入りにくいものほど価値を高く感じる希少性の原理や、緊張による胸の高鳴りを恋と取り違える吊り橋効果も関わっています。

親に反対された恋が燃え上がるのは、自由を奪われた反発から

禁止された恋が燃え上がる中心には、自分の選択は自分で決めたいという欲求があります。他人から「してはいけない」と言われた人は、自由を取り上げられたように感じます。そして、取り上げられた自由を取り返そうと、禁じられた行動のほうへ気持ちが向かうのです。
カリギュラ効果とは、禁止や制限を受けたことで、かえってその対象への関心ややりたい気持ちが強まる心理現象です。「見てはいけない」と言われるとのぞきたくなり、「押してはいけない」と書かれたボタンには手が伸びます。夜更かしを止められると遅くまで起きていたくなるのも、同じ型の例です。広告の世界でも、キャッチコピーに「見ないでください」と禁止の言葉を入れる手法があります。
恋愛に置き換えると、親に「あの人とは付き合うな」と止められた結果、相手への思いがむしろ募った、という体験になります。反対されていた時期は離れられなかったのに、反対が止んだら気持ちが静かになった、という話もよく耳にしますね。
心理的リアクタンスは1966年にブレームが提唱
この反発の働きを、心理学では心理的リアクタンスといいます。1966年にこの理論を唱えたのは、アメリカの心理学者ジャック・ブレーム(Brehm)です。日本での紹介は1977年とされています。
反発が起きるのは、禁止や命令を単なる情報として聞くのではなく、自分を思いどおりに動かそうとする圧力として受け取ったときです。家庭でも職場でも恋愛でも起こる反応で、恋愛を否定された反抗的な人が、隠れて交際を続けてしまう例も挙げられています。行き過ぎた禁止や制限は、その行動をむしろ試したくさせる逆効果を招きかねません。恋愛でも、禁止や抑制をわざと使って相手の気を引く駆け引きは、逆に反感を買うことがあります。
ブレームの実験では、被験者にレコードを評価してもらい、2回目の評価の前に一部の人へ「1種類のレコードは輸送のトラブルで渡せなくなった」と伝えました。2回目の評価で、渡せないと告げられたレコードの点数は高くなる傾向がありました。手に入らなくなったものほど魅力が増す、という形の現れ方です。特定のおもちゃに触らないよう言われた子どもたちが、そのおもちゃに一段と強い興味を示したという結果も、ブレームの実験として知られています。
日本でも、自由を侵害されたとき、その侵害が正当か、合法かによってリアクタンスの強さがどう変わるかを調べた研究があります。2004年に広島大学の紀要に載った論文で、分析結果は仮説を完全に支持していました。
カリギュラ効果は好奇心、心理的リアクタンスは反発心
カリギュラ効果と心理的リアクタンスはよく似た概念ですが、出発点が違います。心理的リアクタンスの根っこは強制に逆らう反発心で、カリギュラ効果の根っこは禁じられたものへの好奇心にある、という整理です。
会えない相手ほど価値が上がる希少性の原理
障害があるほど恋が強まる理由には、心理的リアクタンスのほかに希少性の原理もあります。希少性の原理とは、入手が難しいものほど値打ちがあるように感じる心の働きを指します。親の反対で自由に会えなくなった恋人は手に入りにくい存在になり、その分だけ魅力的に映ります。
この原理を示したのは、アメリカの社会心理学者ロバート・B・チャルディーニです。著書『影響力の武器』の中で、人が頼みごとを受け入れたり説得されたりするまでの心の動きを法則にまとめ、そのうちの一つに希少性を置きました。限定品と聞くと欲しくなるのも、身近な例です。
反対がなくなって冷めたのは、燃料だった障害が消えたから

反対が消えたとたんに気持ちが冷めるのは、恋を燃え上がらせていた障害がなくなったためと説明できます。
敵対する家同士に生まれた2人が、周りの反対を受けながら愛を育てていくのが、シェイクスピアの悲劇『ロミオとジュリエット』です。この物語になぞらえ、親や周囲の反対が強いほど恋人同士の愛情が深まるという考え方を、ロミオとジュリエット効果と呼びます。恋愛に絞ったカリギュラ効果として扱われています。
反対だけが障害になるわけではありません。ふたりのあいだの距離や立場の差も障害になり、その障害が恋心を強める、という説明もあります。略してロミジュリ効果と呼ぶ人もいます。障害が取り除かれると熱が引くこともあるので、長続きする効果ではないと受け止められています。
緊張のドキドキを恋と取り違える吊り橋効果
障害のある恋が燃え上がる背景には、感情の高ぶりを恋愛感情だと読み違える心の働きもあります。代表例が吊り橋効果で、恐怖や緊張による生理的な興奮を、そばにいる相手への好意と誤って解釈する現象です。根拠としてよく挙がるのが、ダットンとアロンが1974年に行った実験です。
実験の舞台は、地上70メートルの高さにかかる全長140メートルのカピラノ吊り橋でした。魅力的な女性の研究補助者が、風景が創造性にどう影響するかを調べている心理学の調査だと名乗り、橋を渡る男性に協力を求めました。第2実験の結果では、揺れる吊り橋の上で電話番号をもらった男性のうち、あとで彼女に電話をかけたのは約半数でした。低いコンクリート製の橋の上で連絡した男性は、約12%でした。
1974年の論文には、野外で行った2つの実験と実験室での1つ、計3つの実験が載っています。解説の多くは第1実験ばかりを扱い、第2実験と第3実験はあまり知られていません。日本の研究者は論文の数値を再分析したうえで、多くの解説が結果を単純化しすぎていて、誤解を招いている場合が少なくないと述べています。
吊り橋効果は近年、再現性と解釈をめぐって議論が続いています。もとの報告には載っていない分析結果を取り上げ、誤帰属の証拠と呼べるだけの強さがあるのかを疑う論文も出ています。興奮が冷めれば効果も薄れるので、生まれた恋愛感情が長続きするとは限りません。障害による強い高ぶりを恋と読み取る心の働きは、燃え上がる恋の説明にはなりますが、学術的に完全には確立していません。
燃え上がる恋は心理学でいう情熱的愛
燃え上がる恋のような状態を、心理学では情熱的愛と呼びます。情熱的愛を定義したのは研究者のハットフィールドで、相手とひとつになりたいと強く願う状態を指すとしました。はじめは態度の一種と考えていましたが、研究を重ねるうちに、認知、感情、行動、生理的な働きが入り混じったものとして見るようになりました。
認知面の特徴は、相手を理想化することと、愛する人へのこだわりです。スリルやストレスのように覚醒の強い場面で相手がより魅力的に見える理由としては、二要素理論が使われます。反対されて緊張が高まった状況で相手への思いが強く感じられる、という見方とも重なる考え方ですね。
スタンリー・シャクターとジェローム・シンガーの2人が1962年に唱えた二要素理論は、体の興奮と、その興奮を何と名づけるかという頭の中の判断がそろって感情が生まれると考えます。
親の反対で愛情が深まるという1972年の研究は、2014年の追試で再現されず

親の反対が恋を強めるという考え方の出どころは、1972年に発表された研究です。著者はドリスコル、デイビス、リペッツ(Driscoll, Davis, Lipetz)の3人です。心理学者リチャード・ドリスコルらコロラド大学の研究者は、140組のカップルを追跡し、親の口出しが多いカップルほど、互いへの愛情が強くなる傾向を見いだしました。
調査には既婚と未婚の両方のカップルが参加し、半年から1年たったところで2回目の調査が行われています。わかったのは、1回目より2回目で親の干渉をより強く受け止めていた人ほど、相手を愛する気持ちも大きくなっていたという関連でした。ある時点の干渉の強さではなく、干渉が増えるという変化のほうが、愛情の増加と結びついていたわけです。
2014年の追試は396人を追跡しても効果を確認できず
再検証に取り組んだのはシンクレアらで、2014年に学術誌『Social Psychology』に論文が掲載されました。対象は396人で、3か月から4か月にわたって追いかけ、1972年の調査と同じ尺度、同じ分析で結果を確かめました。参加者の半数は既婚、残る半数は交際中です。質問は、相手をどれだけ愛しているか、関係を続けるつもりがあるか(コミットメント)、信頼と批判の程度、そして友人や家族からの干渉をどう感じているか、という内容でした。元の研究になかった親からの承認も項目に加え、承認と干渉が同じように働くかどうかも調べています。
結果は、親の反対が恋愛感情を強める証拠にはなりませんでした。干渉が強いと答えた人も、親に認められていないと答えた人も、どの物差しで測っても関係の質を低く答えていたのです。
承認の影響ははっきりしていました。調査の始めに親から認められていた人ほど、4か月たった時点で相手への愛情も、関係を続ける意思も強かったのです。この傾向は既婚者にも交際中の人にも共通していました。
干渉については、既婚か交際中かで結果が分かれました。干渉が強い既婚者ほど、のちの愛情と関係を続ける意思が弱まっていました。交際中の人では、親の干渉と将来の関係の質とのあいだに関連はありませんでした。
そもそもロミオとジュリエット効果を確かめ直した研究は少なく、1972年以降に同じ結果が出た例はほとんどありません。再現性の記録を集めたデータベースに載っている追試は1件だけで、判定は「再現できず」です。追試を行った著者は、最初の研究から40年以上がたつうちに文化などの条件が変わったことを、再現されなかった理由の候補に挙げています。1972年の結果がたまたま出たものだった、という見方もあります。2014年の研究者たちは、親の反対が関係を強めるという主張の根拠は弱いとし、親の反対が破局のような好ましくない結果につながるとする研究のほうが増えていると述べています。
効果が見られた人には共通する特徴があった
2014年の研究では、ロミオとジュリエット効果が見られた一部の人たちに特徴がありました。友人に支えられているという感覚が強いこと、個人主義の価値観を持っていること、自分を独立した存在として捉えていることです。親の反対で燃え上がる恋は誰にでも同じように起こるものではなく、現れ方に個人差があることがうかがえます。
燃え上がった恋には不信感と批判も伴っていた
1972年の研究を行った一人は、あのとき見られた恋心の高まりには、相手を疑う気持ちや責める気持ちの増加もついてきていたと語っています。親の干渉が強いカップルでは、相手を信じる気持ちが下がり、相手を批判する態度が増え、相手を否定したりうんざりさせたりする行動も多くなっていました。著者ら自身、恋愛感情が強まったのは少なくとも短期間に限られると認めています。
周囲の承認が関係を支える社会的ネットワーク効果
ロミオとジュリエット効果と逆向きの考え方が、社会的ネットワーク効果です。友人や家族に認められたカップルほど結びつきが強まり、親しさや愛情、関係を続ける意思が高まって、関係の質も上がるとみます。ロミオとジュリエット効果は、現在の研究では特定の状況でだけ現れる可能性がある、という程度にとどまるという見方もあります。
恋人たちの周りにいる人が、ふたりの関係の安定を左右するのか。このテーマで学術誌『Social Forces』に論文を出したのが、カリフォルニア大学デービス校のダイアン・フェルムリー(Diane Felmlee)です。大学生を調べたこの研究で、恋愛を支えることも壊すこともある周囲の人として挙がったのは、親友、親しい友人、両親、相手の両親でした。
この研究を紹介した大学の発表は、親が強く反対したとき、若者が親の支配に抵抗したくて相手への思いを強めるロミオとジュリエット効果が起こりうる、と触れています。自由を制限されると反発するという点は、カリギュラ効果と同じ考え方です。一方、友人の支援は関係を安定させる方向に働きます。自分の友人に認められていることと、相手の家族に認められていることは、どちらも別れが訪れるのを遅らせていました。
シロクマ効果との違いは、関心が最初からあるかどうか
カリギュラ効果とよく並べられるシロクマ効果は、もともと気になっている事柄が頭から離れなくなる現象です。カリギュラ効果は、禁止や制約がきっかけで関心が新しく生まれる点が違います。
シロクマ効果は、ある考えを意識から追い出そうとするほど、その考えにとらわれてしまう現象です。この現象を示したのは、ダニエル・ウェグナーらによる1987年の白熊実験です。論文は同年、『Journal of Personality and Social Psychology』53巻に掲載されました。
名前の由来は、過激な描写で上映を禁止された映画『カリギュラ』
カリギュラ効果という名前は、映画『カリギュラ』から来たとされています。題材は、暴君として名高い古代ローマの皇帝カリギュラです。性と暴力の描写が過激だったため、アメリカの一部の地域などで上映の禁止や規制を受けました。規制のニュースが広まるにつれて見てみたいと思う人が増えた、というのが由来の説明です。英語圏では、この現象をBanned in Boston(ボストンで禁止された)と表すのが一般的です。
結婚を親に反対されたカップルは先輩花嫁の約2割
親の反対は、結婚を決める場面でも起こります。結婚情報サイトのゼクシィは、先輩花嫁126人にアンケートを行っています。結婚をすんなり認めてもらえなかった人と反対された人を合わせると、約2割にのぼりました。反対したのは新婦側の親のほうが約3倍多く、主な理由は年齢、学歴、職業、コミュニケーション不足でした。
親が反対する理由には、相手の将来性や年の差なども挙がります。相手の男性が安定した仕事に就いていない、あるいは夢を追っている場合、結婚してからの暮らしを不安に思う親が多いといいます。
日本仲人協会は、結婚相談所の業界団体です。協会が内部で取ったアンケートでは、成婚までこぎつけても結婚に至らなかった人や、結婚後まもなく離婚して再び相談所を頼った人が、1割程度いました。親の反対もその要因の一つですが、最も多いのは当人同士のもめごとです。
親の反対への対処は、会う機会を増やして味方を作ること
対処法として紹介されているのは、親と会う機会を増やすことと、兄弟や親戚に味方になってもらうことです。親自身の結婚観が反対の理由になっている場合は、本人だけで説得しようとしても、ほとんどうまくいきません。
親への反発の背景には、心理的離乳という自立の過程がある
親の反対に反発したくなる気持ちは、発達心理の面からも説明がつきます。子どもが親に逆らうのは、親から心理的に離れ、自分の生き方を考え始める心理的な自立の過程にいるからだ、という見方です。
心理学では、思春期に親の影響から離れ、自分の価値観をつくろうとする動きを心理的離乳と呼びます。親を頼らずに済むようになっていく過程です。この概念を提唱したのはホリングワースで、1928年のことでした。生後1年ごろの身体的な乳離れになぞらえ、psychological weaning(精神的な乳離れ)と名づけています。青年期は児童期と成人期のあいだの移行期にあたり、心の面でも親の保護から抜け出して自分の足で立つことが発達課題になる、という意味が込められています。子どもが親の言うことのおかしさに気づき始めるのも、親とは別の人間だという自覚が芽生えた表れです。
日本の研究者は、心理的離乳を、親への反抗や葛藤を伴いながら親とは違う価値観を確立していく過程と定義し、同じ悩みを抱える友人の存在が心の支えになると述べています。西平直喜の分け方では、段階は3つです。最初は思春期から青年中期にあたる親からの離脱で、次は青年中期から後期の自律性の獲得、最後が自己実現へ向かう第三の段階になります。落合良行は、親子の心理的な距離がどう変わるかに注目し、5段階の仮説を立てました。
この時期に親が恋愛へ強く反対すると、独り立ちしたい子どもの思いと衝突し、反抗が強まって親子の関係が悪くなりがちです。子どもの反抗には、親自身のいらだちが関わっている可能性もあります。
燃え上がって冷めた恋は、カリギュラ効果で読み解ける一例
親に反対された恋が燃え上がり、反対が消えて冷めた体験は、禁止された対象ほど欲しくなるカリギュラ効果の恋愛での例として説明できます。
ただ、2014年の追試で出たのは、親の承認が多いほど愛情も関係を続ける意思も強い、という結果でした。自分の恋が冷めた理由をカリギュラ効果だけで片づけず、考えられる説明の一つとして受け止めるのが現実的です。
恋愛以外の場面でカリギュラ効果がどう現れるのか、「見るなと言われると気になる」心理の仕組みを身近な例とあわせて整理した記事もあります。








